七本槍唯一の槍使い・平賀孫兵衛~2021年星組公演「柳生忍法帖」~
平賀孫兵衛。会津七本槍の一人で、長槍の名手として恐れられる悪漢。精悍な黒豹のような男。黒い肌に束ねられた縮れ髪、白目がちな大きな目をカッと開き、怯える人を嘲るように大口を開けて笑う…。
こうやって書くと強そうでしょ?いや多分強いんですけどね、速攻で死にます。それが私のご贔屓・天華えまさん演じる平賀孫兵衛という人。「七本槍」と名を冠している七人の中で唯一槍で戦う孫兵衛ちゃん、原作を読んだので早めにお亡くなりになることは知っていたけど、まさかここまでとは。
短い命だからこそ、ファンとしてはその一瞬一瞬をこの目に焼き付けたいと思うもの。そうです。ずっとオペラグラスで追い続けています。登場からフルスロットルで悪い奴の顔をしている孫兵衛ちゃん、まずもってビジュアルが天才的。鬘・お化粧・お着物のバランスが最強。長い首巻は扱いが大変そうだけれど、美しい所作で払ったり押さえたりしている。お扇子とる時に首巻を払う動作がね…めちゃくちゃ好きですね…。極悪非道な鬼畜のはずなのに、天華さんご自身の品の良さと可愛らしさが随所に見られ、見れば見るほど愛おしさが湧いてくる。原作の「柳生十兵衛から当身を食らってしょんぼりしてしまう孫兵衛」が見え隠れする役に仕上がっているところも大変良い。江戸屋敷での一件、大道寺鉄斎(碧海さりおさん)と牢を持ち上げ、そのままの状態で「堀一族のぉ~~~!!」って言うところがめちゃくちゃ可愛い。なんて可愛い顔してるの。さっきまでの悪い顔はどこへいった。
孫兵衛ちゃん最大の魅力は、表情の豊かさである。東慶寺で板倉不伝さん(天路そらさん)をそれはそれは楽しそうにいじめている極悪非道な顔。江戸屋敷での可愛すぎな顔。それだけではない。主君である加藤明成(輝咲玲央さん)に向ける顔は完全に「よいしょ」している人間の顔。その証拠に明成が孫兵衛を見ていないその隙に孫兵衛は軽蔑しているとでもいうような顔で明成を見ている。柳生十兵衛(礼真琴さん)に捕らわれたのち解放された明成を庇おうとしたら思いっきり頬を叩かれ、殺意のこもった目を客席に向けていたのも印象的だった。明成に対する敬意なんてもんはないのだ、どう見ても。かと思えば、首領・芦名銅伯(愛月ひかるさん)に見せる顔はうっとりと心酔しているような顔だ。この「銅伯に向ける顔」に、えもいわれぬ趣がある。さながら少年漫画の悪役なのだ。孫兵衛のあの表情を見ると、「鬼滅の刃」の魘夢とか「ジョジョの奇妙な冒険」のヴァニラ・アイスを思い出す。圧倒的な力を持つ者に憧れ、魅入られ、崇拝し、更なる力を与えられんと奮起し、戦いの中で散っていく。ジャンプだ。孫兵衛は週刊少年ジャンプの悪役だ。幼少期にジャンプを読んで育った私はそんな孫兵衛ちゃんを見ると胸が熱くなる。そして、くるくると変わる表情は天華さんご自身の魅力でもあり、それが存分に発揮されている孫兵衛は見ていて飽きない。故にずっと追いかけてしまう。完全に沼。
とはいえすぐにお亡くなりになるんですけどね。死に様も見事で感動した。特に亡くなる瞬間、最期の力を振り絞り槍に手を伸ばすその「想いの残し方」が素晴らしかった。「死ぬにあたって心掛けていること、一番は “想いを残すこと”」とは、かの蘭寿とむさんが仰っていたことだ。息を引き取るその瞬間に、その人の歩んできた人生が見える。孫兵衛はすぐにお亡くなりになるお役だからこそ、戦いや槍に対する強い想いを舞台に、観客の心に残して散っていく。天華さんは想いを残す天才なので、今回もその強みを存分に活かしていた。ただ、孫兵衛ちゃんのことを私は「単純にヤベェ奴」と認識してしまっているため、マーキューシオみたいな激重考察は出来なかった。孫兵衛ちゃん、ごめんね。
孫兵衛ちゃんがお亡くなりになって、その後何を見れば良いの?と最初は戸惑ったけれど、私は大体、香炉銀四郎くん(極美慎さん)・多門坊ちゃん(天飛華音さん)・雲林坊さん(咲城けいさん)を見ています。私の推し坊主は雲林坊さんですのでよろしくお願いします。お祭りの場面で心底嫌そうな顔(なのにめちゃくちゃキャワイイ)で踊ってる雲林坊さんを見て。最高がすぎるから。
孫兵衛ちゃん再登場もあるからたまらない。芦名の亡者として出てくる場面、踊りで表現をしているのだけれど、手の所作が抜群に美しくて流石だなあと感心してしまった。美しく整ったしなやかな手の動き。前作「婆娑羅の玄孫」で得た経験をしっかり今回の公演でも活かしているところが!!贔屓の最高なところなんですよね!!
短い命を存分に燃やして舞台上で生きる孫兵衛ちゃん。一瞬一瞬が尊くて、毎回頑張って目に焼き付けるけれど、毎回違う顔が出てくるから驚いてしまう。早々にお亡くなりになろうと、槍を振り回す時たまに「オ゛オ゛ン゛ッ゛」ってニャンちゅうみたいな鳴き声を漏らそうと、ソロで歌うのがたった2小節だろうと、誰が何と言おうと、贔屓は宇宙一素敵!!