山彦さんについての考察~2019年星組公演「龍の宮物語」~

天華えまさん、お誕生日おめでとうございます!!そんなおめでたい空気に便乗しまして、既に多くの方がされているであろう「龍の宮物語」の山彦さんに関する考察を今更させてもらいます。ネタバレなので、まだ御覧になってない方は読まない方が良いかもです。

「龍の宮物語」の中で、人間でありながら不思議な存在である山彦さん。清彦さん(瀬央ゆりあさん)の親友であり、なぜか清彦さんが夜叉ヶ池に行くことを阻止しようとしたり、いざ池へ行ったと知ると大慌てで追っていく。「また同じことが起こるのか」「また君は呼ぶ」「また繰り返す」…。何か知っていることをめちゃくちゃ匂わせてくる。一体この人は誰なのか。分からないまま一幕が終わり、二幕の中盤、再び登場した山彦さんから、夜叉ヶ池伝説と清彦さんの一族の関係について語られる。玉姫様(有沙瞳さん)は雨乞いの贄となった少女であり、その少女の恋人が清彦さんの先祖(拓斗れいさん)であったこと。必ず助けると約束しながら結局は助けに来なかった清彦さんの先祖への玉姫様の恨みは深く、その子孫の命をも狙っていること。そのため一族は決して夜叉ヶ池に近づかないという掟を作り守ってきたこと。そして…ただ一人、掟を破り夜叉ヶ池へ行った者がいて、それは清彦さんの祖父であったこと。

ここまで聞いて、私は山彦さんこそが掟を破った清彦さんの祖父であると解釈した。思えば、清彦さんが「父を早くに亡くし、祖母の家で育った」と語った時、何とも言えない顔で清彦さんを見ていた。清彦さんの言う祖母は、山彦さんの奥さんのことではないのか。

ここからは私なりの解釈になってしまうけれど、恐らく山彦さんは結婚をして子供もいた。山彦さんの性質上あり得そうなことで考えると、お酒を飲んで酔っ払って軽率に夜叉ヶ池へと向かい、龍の宮へと連れていかれたのではないだろうか。そして、玉姫様に命を狙われていると知り、地上へ帰ってきたら、数十年の年月が経っていた。妻は亡くなっていて、生きる場所もない。全てを失った山彦さんが、ある時自分の孫である清彦さんを見つける。夜叉ヶ池に近づいてはならないという代々伝えるべき掟を自分の子供に伝えられなかった山彦さんは、清彦さんのそばにいて、彼が夜叉ヶ池に近づいたりしないよう、折を見てその掟を伝えられるよう、友人として見守っていたのではないか。そうだとすると、清彦さんを見つけた時、山彦さんは一体どんな気持ちだったのだろう。妻や子の生きた証がこうして残っていることに喜びを覚えると同時に、清彦さんもまた命を狙われるかもしれない、その恐怖に苛まれたのではないか。もし夜叉ヶ池に行ってしまったら、清彦さんは殺されるかもしれない。運よく生きて帰ってこられても、沢山のものを失うことになる。かつての自分のように。だから守っていたのに、結局清彦さんは夜叉ヶ池に呼ばれ、龍の宮へ行ってしまった。山彦さんの後悔の全てが「なんで止めないんだよ!」という台詞に込められているように聞こえて、胸が苦しくなった。

龍の宮から帰った清彦さんの前に現れた山彦さんは、いつか百物語をした時に皆をおどかそうとした百合子さん(水乃ゆりさん)の「もし、そこのお方」を真似して声をかけ、「ここは(幽霊が)出たって驚くところだろう」とおどけてみせる。清彦さんに「何か知っているんだな。」と言われ、とうとう全てを話す。清彦さんはあの瞬間、山彦さんが祖父だと気付いたのだろうか。気付いていたとしても、彼の頭の中は最早、玉姫様でいっぱいだった。「池にはもう近付くなよ。」山彦さんの声は、もう清彦さんには聞こえていなかった。

その後清彦さんは、山彦さんが随分前に亡くなっていたことを知る。「ここは出たって驚くところだろう」。まさかあの台詞は彼が亡くなっていることの伏線だったというのか。だとしたら指田先生、恐ろしい。再び夜叉ヶ池に向かう清彦さんの背中を見送りながら、山彦さんが涙をぽろぽろ流して歌う「夢沈む(山彦)」はとにかく切なくて悲しくてやりきれない気持ちになる。「俺が頼んでももう、聞いてくれないんだな。」きっと清彦さんはお人好しで優しい人だから、今まで幾度となく、「仕方ないなぁ」なんて言いながら山彦さんの頼み事を聞いてくれていたのだろう。龍の宮から戻りひとりぼっちになった山彦さんは、そういう清彦さんに救われていたのかもしれない。けれど恋という、玉匣より時間の経過より強い強い玉姫様の呪いにかかってしまった清彦さんの耳には、ついに山彦さんの声は完全に届かなくなってしまった。あぁ、山彦さんはあの瞬間、本当に何もかも失ってしまったんだ。

私の解釈が合っているかは分からないし、もしかしたらNOW ON STAGEとかその他の媒体で正しい解釈が出ている可能性があるけれども、純粋に作品だけを見て私が考えたのが上記のこと。最早考察というより妄想ですねごめんなさい。そして、たった一つ確かなことがある。天華えまさんは観客に己の役の背景を思い悩ませる天才だということ。「婆娑羅の玄孫」の頼母さんもそうだったけれど、出番がすごく多い訳ではないのに、いやだからこそ、語られていない部分をこちらに想像させる程の奥行きを台詞や目線、表情によって生み出す天才。しかもそれを意識してやっているんだから恐ろしい。天華さんを好きだからこんなに考えてしまうのか、こんなに考えてしまうから天華さんがを好きなのか、もう分からなくなってきている。怖い。夜叉ヶ池から浮き上がれない。

最後に、天華さん限界オタク的な感想を述べさせていただくなら、「あんよ…お髭…ウッ…」以上です。

 

宝塚

Posted by malchan