人が良すぎて心配になる of the year レグルス・バートル~2022年星組公演「めぐり会いは再びnext generation」~

「瀬央ゆりあさんって面白くって良い人なんだな。」

舞台で瀬央さんを認識するより前から、なぜか私の中でそういった認識があった。恐らく、宝塚GRAPHなどの月刊誌で垣間見える瀬央さんの“本名の部分”を見て、なんとなくそういう認識でいたのだと思う。その後舞台でもしっかり認識出来るようになり、スカイステージで素の瀬央さんを拝見出来るような番組を見ても、やっぱり「瀬央さんって面白くって良い人なんだな。」というイメージは崩れなかった。そんなイメージ通りの瀬央さんを舞台上でも堪能できるのが「めぐり会いは再び next generation」。役者本人の特性に合わせて脚本が書かれる、いわゆる「当て書き」で作られた作品だけあって、瀬央さんが演じるレグルス・バートルという人は、あまりにも人が良すぎて心配になる。

まずもって、家賃も払わずレグルスの探偵事務所に居候をしているルーチェ(礼真琴さん)に対して本気で怒るようなことは決してなく、それどころか、恋人と喧嘩して落ち込んでいる彼を励まそうとお酒やらお肉やらを買ってきてくれている。登場からフルスロットルで良い人発揮しちゃってんなこの人。友人たちの私物が部屋のあちこちに置かれていてもそれに対して文句は言わないし、友人のセシル(天華えまさん)に至っては、絶対泊めてもらえる、という確信があるのだろう、下宿を追い出されて何の迷いもなくレグルス探偵事務所に来た模様。ついついみんなが甘えてしまう頼れる兄貴。瀬央さんが演じるからこそ、レグルスは困っている友人を絶対に見捨てることはない、と思え、見ているこちらにも安心感を与えてくれる存在だ。


友人を大切にし、家族も大切にしていたであろうレグルス。それを象徴する台詞が二つある。ひとつは、宰相オンブル(綺城ひか理さん)の企てで探偵事務所が襲撃され、壁に開けられたの穴を見つけた時の台詞だ。「なんだこの穴は!!」と叫んだ後、彼の口から出てくるのは「やったのは誰だ!!」等ではない。「死んだ親父に顔向けできないよ!!」なのだ。この一言だけでも、彼がいかに父親に対して愛情や尊敬の念を持っているかが分かる。いつだって彼の中に父の存在が息づいているからこそ出てくる言葉だ。そんな大切な父親を亡くした時は、さぞ辛かったことだろう。その時に支えてくれたのがルーチェ、セシル、ティア(有沙瞳さん)、アニス(水乃ゆりさん)の探偵事務所メンバーだったとしたら…。ルーチェたちはなけなしのお金でお酒やらウインナーやらを買って持ち寄り、レグルスのことを力付けようとしたに違いない。心配かけまいと気丈に振舞うレグルスも、お酒が入ることで緊張の意図が解け、泣きながら父との思い出を彼らに語ったのかもしれない…。何も言わず、ただ黙ってその話を聞いて、一緒に泣いてくれる友人たち…。いけないいけない、妄想が暴走して目から水が出てきちゃった。

そしてもうひとつは、手に入れたお金でもっといい所に引っ越せるんじゃないの、と言うティアに対しての台詞だ。「せっかく親父が残してくれた場所だし、それにあいつらもいつ戻ってくるか分からない。俺はずっとここにいるよ。」例え大金を手に入れても、自分の大切なものは決して見失わない。レグルスにとっては立派で綺麗な「探偵事務所」が大切なのではなく、何よりあの場所、父との思い出、そして友人たちとの思い出が詰まっている「レグルス・バートル探偵事務所」が大切なのだ。泣ける。大切な場所で、友人たちの拠り所であることを選んだレグルス。瀬央さんだ。本当の瀬央さんがどんな人かは分からないけれど、少なくとも私の中のイメージの瀬央さんそのものだ。「ずっとここにいるよ」ってなんて心に沁みる優しい言葉なんでしょうね…。ルーチェとアンジェリーク(舞空瞳さん)の結婚式の場面でも、友人の幸せを心から祝福する笑顔に人の良さが溢れていて自然と涙が出てくる。瀬央さんのあの、目を極限まで細めてくしゃっとしたスマイルに私はめっぽう弱いんですよね…胸がギュってなって涙が出ちゃう…。

それだけではなく、ティアとの場面でも人の良さが大爆発を起こしている。長年友人として共に過ごしてきた彼の告白は、「好きだよ」とか「愛してる」なんてありきたりな言葉じゃない。「一緒に住もう」なのだ。しかも、事務所の上階の部屋を新たに借り、大女優志望のティアが思う存分お稽古出来るよう、コルクを貼って防音処理を施すから一緒に住まないか、と提案するのである。相手のニーズに沿った提案を的確に提示することが出来る。探偵より営業の方が向いているんじゃないか?そして、これに対するティアの答えが「エメロード様の次の大女優は私ね!」なのがまた憎い。さすが女優、気の利いたお返事でめちゃくちゃ好き。セシルが「くそぅ…名台詞だぁ…」って悔しがりそう。ずっとお互い好きだったのだろうし、なあなあのまま一緒にいることだって出来ただろうに、ルーチェとアンジェリークに感化されたのか、しっかりけじめをつける実直さもまた瀬央さんに通ずる部分かもしれない。

ここまで書いていて気付いた。確かにレグルスは良い人だけれど、お人好しとは少し違って、自分の中にしっかりとした判断基準がある人だなぁと思う。これからは、彼の判断のよりしっかりとした指針になりそうなティアもそばにいる。全然心配することないや。どうか末永くお幸せに!!!!