代役公演を観て思う事~2022年星組「モンテ・クリスト伯/Gran Cantante!!」~
星組全国ツアー公演「モンテ・クリスト伯/Gran Cantante!!」。予定通り9/1に梅田芸術劇場にて初日を迎え、順調に千秋楽まで上演されるかと思われた矢先、公演関係者の中から新型コロナウイルス陽性者が出てしまい、9/13石川県金沢歌劇座公演、9/14富山県オーバードホール公演、9/16~9/18神奈川県相模女子大学グリーンホール公演が公演中止に。9/19に公演を再開したものの、主要キャストである綺城ひか理さん、天華えまさんを含む7名の休演が発表され、代役を立てての公演再開となった。
公演中止を延長するのか、公演を再開するのか。陽性者が出る度に、劇団は難しい選択を迫られているのだと思う。出演者の負担(体力的なものも、精神的なものも)を考えると、十分な人員が確保できないのであれば、中止にするべきなのかもしれない。しかし、特に今回は、いわゆる「別箱公演(宝塚歌劇団所有の劇場以外での公演)」であり、「少しでも上演しないとペイ出来ない」とか、そういった事情もあるだろう。ただ、代役を立てての公演再開を決断するということは、「代役公演と言えど、既に観客が支払っているチケット代に見合うクオリティの舞台を届けなくてはいけない」というプレッシャーも伴う。そのプレッシャーを一身に受けてしまう代役の演者さんに対して、ファンの心情としては「無理しないで、出来る範囲で良いよ」と思ってしまうけれど、当然そうは思えない人だっている。たった一度きりしか観られないかもしれないその舞台が、初めて観る宝塚の舞台が、代役だからという理由で本来見られるはずだったクオリティからかけ離れたものであったら…。観客の失望はあまりにも大きいものとなるだろう。
とはいえ、今回の公演は、代役を立てて上演して正解だったように思う。お芝居では、綺城ひか理さんの代役でヴィルフォール検事総長を演じた夕陽真希さんも、天華えまさんの代役でルイジ・ヴァンパを演じた蒼舞咲歩さんも、素晴らしい演技をしていた。出演するはずだったお二人の真似をするのではなく、この短期間でしっかりとそれぞれの役作りをし、お二人の持ち味や力を存分に発揮されていたと思う。特に蒼舞さんの演じるルイジ・ヴァンパは、狂言回しの役割を担っている為台詞量がかなり多い。加えて、感情と結びつけられる台詞と違い、説明台詞はとにかく覚えにくい。そんな中で、あれだけのクオリティで、一切戸惑いを見せず、たとえ台詞が飛びそうになったとしても役としてしっかりリカバリーしていたのだから素晴らしい。夕陽さんもまた、しっかり悪人の顔をして、同じく悪人役の瀬央ゆりあさん、輝咲玲央さんと並んでも堂々としており、歌声ものびやかだった。他の代役の方々も誰が代役か分からないくらい違和感なく物語に溶け込んでいたし、さりげなく登場した「男役・音咲いつきさん」には驚きつつも嬉しさと頼もしさを感じた。
ショーでも出演している人が総出で休演者の穴を埋める奮闘ぶり。美稀千種さんは幕開き3人での場面を一手に引き受け、綺城さん・天華さんが抜けたプロローグのダンスシーンに天希ほまれさん・夕渚りょうさんが登場、プロローグ後の場面を遥斗勇帆さんと蒼舞咲歩さんが代役とは思えない力強さで担い、続く場面で歌うニンジンとして美しい歌声を披露した鳳花るりなさんは愛らしく、名曲「瞳の中の宝石」を下級生ながら堂々と歌い上げた鳳真斗愛さんは圧巻だった。他の場面でも色んな方が沢山沢山奮闘していたのだけれど、中でも瀬央ゆりあさんの活躍は凄まじかった。確かにお芝居ではあまり歌を歌っていないのだけれど、それにしたって代役として歌をこれだけ任されることがあるのか。中詰で天華さんが歌っていた「バレンシアの熱い花」を見事に歌い上げ、その直後本来の自分のパートである「コルドバの光と影」も存分に聴かせてくれる。この時の切り替えが絶品。「バレンシア~」は後半が詩ちづるさんとのデュエットとなっており、優しい眼差しで詩さんを包み込むように歌い上げた直後、その場で一回転する間に表情がガラッと変わり、大きな瞳から鋭い光を放っていた。パレードでは暁千星さんのエトワールに続いて登場し、天華さんのパート・綺城さんのパートを階段上で歌い、ご自身のパートを歌って階段を下りてくる。すごい。瀬央さんの、星組を支える力の大きさを強く感じた。各場面で人数が減ってしまい、新たな役割を与えられた人がほとんどで、きっとお稽古も大変だったと思う。それでも、人数が減ったとは思えないほどのパワーが舞台からビシバシ伝わってきて、幾度となく涙が溢れてきたのは言うまでもない。
実際にこの目で見たからこそ、代役公演でも素晴らしい舞台だったと思える。しかし、私みたいにあっさり受け止められる人だけじゃなく、「贔屓が出ていない公演なんて見たくない」という人がいるのも理解が出来る。それは恐らく、「代役が」とか「他の出演者の方が」とかは関係なくて、ただただご贔屓様のことがすごく大好きだってことだから、そんなに素晴らしいことはない。受け止め方は人それぞれで、どれも正解なのだと思う。現状を受け止められないことで自分を責める必要なんてないし、そんな事で傷付く必要もない。礼真琴さんも仰っていた。「皆さん複雑な気持ちだと思います。それは私たちも同じです。」きっと、誰だって何もかもをポジティブに受け止めることが出来るわけではない、ということ。
色んな人の色んな想いの上で舞台が成り立っている。代役公演を観て、改めてそんな事を考えるなどした。