ルーチェとアンジェリーク~2022年星組公演「めぐり会いは再びnext generation」~
「笑いあり、涙ありの喜劇!悲劇?とにかく劇!」との紹介があるものの、まさかこんなに泣くとは思わなかった。「めぐり会いは再びnext generation」。タイトルの通り、次の世代に想いや役割が受け継がれる、という場面も盛り込まれていた。だからかもしれない。これまで2作上演された「めぐり会いシリーズ」の中でも、単なるドタバタラブコメでは片づけられない重みがあり、胸を打たれた。そして、「王家に捧ぐ歌」以来、舞空瞳さんの魂の奥の奥から発せられる台詞や歌、観ているこちらの心さえも動かす心情の揺らぎ、キラキラした瞳に映る強さにすっかり心を奪われている私は、今回も舞空さんのお芝居に大いに泣かせてもらった。
礼真琴さん演じるルーチェが舞空さん演じるアンジェリークを想って歌う「Love Detective」では、間奏中に二人の喧嘩が繰り広げられる。もとはと言えば自分の出自について話す為にルーチェの元へ行ったはずなのに、「お父様からそろそろお嫁に行けって言われたらどうする?行くなって言ってくれるわよね。」と問うアンジェリーク。これに対してルーチェが返した言葉は「行くななんて言えないよ、言える立場じゃないし。」脚本にはこの後、“アンジェリーク「…」”との記載があるのだけれど、脚本を見る前から、この「…」を感じ取ることが出来た。舞空さんのお芝居のすごいところがそこだ。「…」に想いが詰まっている。言いたいことがあるけれど、色んな想いが邪魔をして言葉が出てこない。その切ない表現が絶品なのである。そして、ルーチェに「君の人生だから」と突き放すような言葉まで言われ、本題である自分の出自について語ろうとするも、「実は私…」まで言って言い澱んでしまい、苛立った口調で「何?」と聞いてくるルーチェに、「何でもない。さようなら!」と言い捨てて逃げるように去っていく。自分に対する苛立ちをアンジェリークにぶつけてしまうルーチェと、それが自分に向けられた苛立ちだと勘違いして悲しむアンジェリーク。切ない。このすれ違いが切なくて切なくて、悲しみと怒りとが綯交ぜになったみたいな舞空さんの表情が胸に刺さって、毎度この場面でボロボロ泣いている。序盤からフルスロットルで泣いている自分に若干引いている。
そもそもルーチェは「幼い頃、母が最期に自分に向かって必死に伸ばした手を取る事が出来なかった」というトラウマから、いざという時にその「弱虫な自分」が現れあの日と同じように逃げてしまうのではないかと恐れ、アンジェリークに対しても曖昧な態度をとり続けているのだけれど、この「Love Detective」の段階ではまだそんな弱虫なルーチェくんなのだ。アンジェリークは一生懸命ルーチェに向かって手を伸ばしているのに、彼はその伸ばされた手を見ようともしない。だからアンジェリークも傷付いて気持ちと裏腹な言葉を吐き出して喧嘩になるし、ルーチェはルーチェですれ違ったまま一生会えなくなる可能性だってあることを知っているはずなのに勇気を出せず、そんな自分自身に更に苛立つ。完全に悪循環。分かっているのにどうにも出来ないルーチェのもどかしさも理解できるから余計に切ない。
しかしそんな彼も、物語の中で成長していく。「王女様の花婿選び」などというおかしなイベントに参加させられ、ライバルたちと競争する中で、アンジェリークへの想いをより確かなものにしていく。花婿選びの終盤で行われるダンスコンテスト。ルーチェは自ら誘ってアンジェリークと出場することを決める。二人で踊っている時、繋いだ手が何度離れようと、彼は何度だって自分から繋ぎ直すのだ。その姿にまたバカみたいに泣いてしまう。ずっと逃げていたルーチェが、ようやく自分の気持ち、そしてアンジェリークと真正面から向き合い、あの日のトラウマを乗り越えた瞬間。「課題をクリアしないと、欲しいものは手に入らないんだよ」。この場面で出てくるこの台詞は、どこか「これが最後のチャンスだ」ということを本能的に感じ取っているようにも思える。土壇場で逃げ出さずアンジェリークの手をしっかり掴むルーチェ。泣かずにはいられない。
そしてアンジェリークちゃん。実は王女である彼女、花婿選びの裏で悪事を働いていた宰相オンブル(綺城ひか理さん)に誘拐され、オンブルの息子・ロナン(極美慎さん)といよいよ結婚させられそうになってようやく、自分の想いを素直に紡ぎ出す。彼女が歌う「ミッドナイト・ガールフレンド」でまた泣くんですよ。涙腺壊れちゃったのかなってくらい。「もしももう一度会えたら必ず言える あなたが好き」「たった一人の王子様」こんなストレートな愛の言葉がありますか。ルーチェくんに今すぐ聞かせてあげたい。そしてこれを歌う舞空さんの目がお星さまを閉じ込めたみたいにキラキラ輝いていてそこにまた泣ける。圧倒的ヒロイン・舞空瞳、恐るべし。
今回の公演で退団する天寿光希さん演じるユリウスと、同じく退団者の音波みのりさん演じるレオニードが、それぞれルーチェとアンジェリークに、前に進む勇気をくれる言葉を残す場面もある。特にレオニードが残す「自分の心を見失わないで」という台詞は、音波さんの柔らかくも力強く、この上なくあたたかいお声にもう涙が止まらない。想いが受け継がれるその瞬間を見ることが出来る。宝塚を観る醍醐味と言っても過言ではない。
ユリウスとレオニードの優しさを勇気に変えて、自分の心に素直になったルーチェとアンジェリークはついに結ばれ、最後は大団円のハッピーエンド。ラストシーンは本当に幸せに満ち溢れすぎてまた涙が溢れてくる。(どれだけ泣くんだ…)どこまでも明るく幸せな作品だった。定期的に上演してほしいくらい好き。あまりにも好きすぎて、この作品が終わってしまった後の事を考えるととても怖い。ただそんな事も言ってられないので、限りある公演期間を一生懸命心に刻み付けようと思う。
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