あまりにも令和版銀ちゃんが楽しみすぎて~2008年花組公演「銀ちゃんの恋」~

今年、銀ちゃんの恋が再演される。大好きな作品であることに加え、水美舞斗さん主演で上演されるとあって、発表された際には小躍りしながら喜んだ。宝塚らしからぬこの作品、4度目の上演が決まったということは、よほど再演を望む声が多かったのだろう。ということで、私の大好きな2008年版銀ちゃんの恋について書かせていただきます。

落ち目の俳優・倉丘銀四郎(銀ちゃん)は、交際中の女優・水原小夏を身籠らせてしまう。今後の仕事の為、身の回りの整理をするように会社から言われた、という銀四郎は、小夏と後輩の大部屋俳優・平岡安次(ヤス)をくっつけようとする…というところから物語が展開していくのだが、この時点で清くも正しくも美しくもない。幕開きからここに至るまでの銀ちゃんは、映画の撮影で一秒でも長く映ろうと無駄に大仰な台詞回しと立ち回りを見せ、スナックでべろべろに酔っぱらって子分たちに絡み…面倒くさい男だ。しかし彼には複数人の子分たちがいて、慕われている様子が窺える。なぜなのか。それは銀ちゃんが人としてとても魅力的だからだ。ろくでもないわがままな男なのに放っておけない。純粋で傷付きやすい子供みたいな人。そんな銀ちゃんを小夏もヤスも子分たちも愛しているのが伝わり、物語が進むにつれて、観ている私も銀ちゃんを好きになっていく。真っ直ぐで嘘がなく、不器用な優しさを見せる銀ちゃんを。

2008年花組版、2010年宙組版と2度に渡り銀ちゃんを演じた大空祐飛さんは、まさにハマり役だった。祐飛さんが演じる銀ちゃんはあたたかみと茶目っ気があって、無邪気な笑顔は「子供みたいな銀ちゃん」そのもので、本当に格好良いキザりとどこかおかしみのあるキザりを使い分け、銀ちゃんという人を見事に体現していた。

そしてこの作品の肝となるのが、ヤスである。2008年花組版ではみつるさん(華形ひかるさん)が演じており、大変に素晴らしかった。普段はさながらジャニーズのようなビジュアルで立ち居振る舞いはイケメンのそれ、「世界の彼氏」なんて通り名まであるあのみつるさんが、この作品では完全に冴えない大部屋俳優にしか見えないのだ。纏っているあたたかいオーラに違わぬ穏やかな気質のヤスは、銀ちゃんに押し付けられる形で小夏と暮らし始めるが、小夏への思いやりが徐々に愛情に変わっていく。その機微は見ていてとてもあたたかい気持ちになる。小夏の銀ちゃんへの想いと銀ちゃんの映画への想いを一身に背負って池田屋階段落ちを決意し、それ故の複雑な胸中を銀ちゃんや小夏へぶつけるシーンは、この上なく切なく苦しい。お芝居は人と人とのつながり、と言うけれど、それをこれほどまでに強く感じられる作品はそうそうない。魂をぶつけ合って演じているからこそ、心を揺さぶられる。銀ちゃんの恋を観てからというもの、みつるさんが舞台上で発されるあたたかなオーラを目の当たりにする度に胸が締め付けられて泣きそうになっていた。

当時小夏役を演じていた野々すみ花さんもまた素晴らしかった。祐飛さんとは一回り以上の学年差でありながら、堂々とお芝居で渡り合っている。銀ちゃんへの愛故に銀ちゃんから離れ、ヤスと共に生きることを決めたのに、それを銀ちゃんに引っ掻き回される。そのせいでヤスともすれ違い…。不憫だ。しかし、すみ花さんの演じる幸薄な美人は絶品なのである。これもずば抜けた演技力あってのもの。大きなお腹で客席を歌い歩く姿も可愛らしくて良い。池田屋の階段の前で繰り広げられる銀ちゃんとの掛合は何度観ても涙が溢れてくる。彼女の葛藤と、それでも揺らぐことのない決意を演じるすみ花さんには、確かに小夏が憑依していた。宝塚の娘役さんの、美しいだけじゃないお芝居を観ることが出来るのも、この作品の魅力だ。

2021年花組版では、ヤスをつかさくん(飛龍つかささん)、小夏をみさきちゃん(星空美咲さん)が演じることが今日発表された。マイティー(水美舞斗さん)やつかさくんもさることながら、まだ研3という若さのみさきちゃんがこの作品でどれほどの進化を遂げるのか、非常に楽しみである。観に行きたいなあ、友の会ちゃんチケット頼む!!!

 

宝塚

Posted by malchan