美しい音楽と素晴らしい配役~2019年花組公演「CASANOVA」~

とにかくドーヴ・アチア氏の曲が刺さりまくっている私だ。宝塚は「太陽王」「1789」「アーサー王伝説」と彼が手掛けた作品を日本で初めて上演した功績がある。そして満を持して、ドーヴ・アチア氏が宝塚の為に楽曲を書き下ろした。それが「CASANOVA」。主演明日海りお、ヒロイン仙名彩世、鳳月杏が女役、舞台はイタリア、作・演出生田大和、衣装有村淳、敬称略。好きが詰まりすぎてて訳が分からないね!!

残念ながら劇場での観劇は叶わなかったので、待って待って待った末にタカラヅカ・スカイ・ステージ様で拝見した。初見の感想はといえば、「大好き!!」という小並感満載のものしか出てこなかったが、それが全てのような気もした。そしてすぐさまスマホを手に取り、全ての音源をダウンロードした。我ながら仕事が早い。

まずもって、希代のモテ男・カサノヴァをみりおさん(明日海りおさん)が演じているのがとても良い。どちらかというと悩み苦しみもがきこじらせまくった役をよく見ていたような気がするし、そういうみりおさんが大好物なのだけれども、こういう軽妙洒脱な役もまあ似合うこと。幾千もの女と幾百の夜を過ごした訳だから、女視点から言えばゆきさん(仙名彩世さん)演じるベアトリーチェが言う通り、「女の敵」なのだけれど、“移り気”というよりは“皆を愛してる”し、「俺は皆のものだよ」みたいなスタンスがガチのイケメンのそれ。全員に同じくらい大きな愛情を注げて、女たちも納得のモテっぷりだから、女同士のいざこざもない。何なら母と娘、二世代に渡って関係を持ってる。ストライクゾーンがユーラシア大陸並みの広さ。そしてうっとりするような美しいお顔。もう文句も言えない。

好きなシーンはもちろんたくさんあるけれど、「人生には恋と冒険が必要だ」は絶品。必見。全人類に御覧いただきたいレベル。赤いドレスの女たちを従えて歌い踊り、リアルト橋の上から愛という名の花びらを舞い散らせるカサノヴァ。花びらを求めて橋の下に群がる女たちはさながら餌を求める美しい鯉のよう…。これこれ、こういうのが見たかったのよ。「二人分かつ鼓動が」のところでカサノヴァと同じように左胸を右の拳でドンッドンッと叩くくらい大好きな曲、大好きなシーンだ。囚人なのに派手な格好をしているのも良い。バルビ神父(水美舞斗さん)は汚い恰好させられてるのにな…。

「ひとつの愛、一人の人」もまた良い。1017人の女性と関係を持ったカサノヴァも、実はたった一人の運命の恋人を探し求めているというのが胸キュンだ。この歌を舞台袖で聞いていたゆきさんが「私のこと歌ってる…」と胸をときめかせていたというエピソードも込みでめちゃくちゃ好きである。

そして忘れちゃいけないのが「脱獄」だ。牢屋のルームメイト・バルビ神父とともに脱獄する時に歌うこの歌は、ノリが良いし二人とも歌が上手いし耳が幸せ。

そして、カサノヴァの恋のお相手、ベアトリーチェ。この人がまた最高である。修道院育ちのお嬢様で、礼拝礼拝礼拝の毎日からついに抜け出し解放感に満ち溢れヴェネチアの町を駆け回るヒロイン。可愛すぎか。カラフルなドレスは彼女の明るくチャーミングな性格をそのまま形にしたみたいで、とっても可愛い。割とやりたい放題の彼女はヴォルテールの啓蒙思想に感銘を受けており、そんな彼女の歌う「愛を恐れずに」はこれまた絶品だ。「私の目で見たそのままの世界を愛する」「誰を愛して誰と生きるかも自由」「私が選ぶ愛こそ真実」…。今の時代にぴったりな考え方だ。自分の世界や自分の心を真っ直ぐ信じて生きられるのって羨ましい。世の中みんながこういう考え方なら、差別とか起こらないんだろうなあ。

更に大本命は、完全に愛の迷宮に迷い込んじゃってるコンデュルメル夫人・ちなつさん(鳳月杏さん)。でっかい。もの凄い存在感。しかしその存在の大きさに反して、繊細な心を持っているのがコンデュルメル夫人なのだ。本当は夫に愛されたくて抱きしめてほしいだけなのだけれど、上手く伝えられなくて、気を引くために黒魔術に手を出してみたり、「人形になれる薬」を作ってみたり、ゾルチ夫人との不倫を知って当てつけにカサノヴァと関係を結んでみたり、「ちょっとだけ猫になれる薬」を作ってみたり。超ド級のメンヘラみがあるものの、コンデュルメル夫人は愛おしい。2幕の「私を愛して」の「見つめて触れて抱きしめて」のところ、うわーーーんって泣いてるみたいな顔で歌っているのが超絶可愛い。早く抱きしめてあげてよ、コンデュルメル閣下(柚香光さん)。あなたの奥方、こんなに可愛いぞ?何が不満なのか言ってみなさい。

心弾む音楽で彩られたミュージカルは本当に楽しい。それを歌う演者の皆さんの歌による表現が上手ならなおのこと。「CASANOVA」は本当に大好きな作品なので、いつか生で観劇したいし再演してほしいな、なんて軽く思うけど、とにかくみりおさんのカサノヴァが素晴らしすぎるので、もしこれを再演するとして、この役がみりおさん並みにピッタリくるスターが果たして現れるのか…。いつかそういう人が現れて、再演されることを願っている。

タカラヅカ・スカイ・ステージでは6月25日(金)夜7時から放送予定なので、ぜひご覧ください!!