阿部様と頼母さん~2021年星組公演「婆娑羅の玄孫」~

私のご贔屓様・天華えま様。「婆娑羅の玄孫」では一幕は阿部四郎五郎、二幕は西川頼母という2役を演じている。配役発表の際、通し役じゃないの!?と衝撃を受けたけれど、蓋を開けてみたらこの2役は天華さんじゃなきゃ出来なかったな、と納得した。見た目はほぼ同じ、けれど纏う空気が全く違う。改めて天華さんの演技力に驚いた。

一幕・阿部四郎五郎はいわゆる「敵役」である。紅葉の中を悠然と歩く姿はいかにも強いお武家様と言った風情、眉を吊り上げ口をへの字にしている顔は彼の為人を表しているようだし、口を開けばねっとりと嫌味ったらしい話し方。一目で分かった。「阿部様とはちょっと仲良くなれそうにないっす。」しかも、まだ子供である麗々(小桜ほのかさん)・真々(稀惺かずとさん)に対しても「分からん言葉でギャーギャーわめくな」「手打ちにいたすぞ」と威圧感たっぷりに言い、容赦なく冷ややかな視線を向ける。怖い。だがしかし。お茶会の場面で阿部様の好感度が爆上がりする。お茶を召し上がる所作が大変に美しいのだ。そして余興として呼ばれたいろは座の踊り子たちを楽しそうに見て、獅子舞と目が合うと嬉しそうに笑い、五貫屋嘉兵衛さん(美稀千種さん)と楽し気に話している。なんだ、もしかして悪い人じゃないのかしら。そんな阿部様に対して、最も「仲良くなれそう!!」と思った瞬間がある。好みのタイプが一緒だと判明した瞬間だ。私は瑠璃花夏ちゃんが好きなのだけれど、なんと阿部様もそうだった。踊り子・瑠璃ちゃんと目が合ってからというもの阿部様は完全に狙っており、阿部様のいる上手から下手へと瑠璃ちゃんが移動した後も、瑠璃ちゃんの方を指し五貫屋さんとニヤニヤしながら何やら言葉を交わしていた。分かる。瑠璃ちゃんめっちゃ可愛いよね。趣味合うじゃん。阿部様と仲良くなれるかも!と思った刹那、阿部様はお亡くなりになりました。あんなに強そうに出てきてめちゃくちゃ弱いじゃないですか阿部様。無念。

二幕・西川頼母は佐々木家家臣、高久様(轟悠さん)とは幼い頃共に育ったという役柄。これがもう、天華さんの魅力大爆発で本当に困った。好きすぎる。長屋にある高久様の家を訪ねる際、はじめは緊張した面持ちだったのに、高久様と顔を合わせた瞬間、花が咲くみたいにパァッと明るい笑顔になる。かと思えば、高久様が別れも告げず突然姿を消したことに対する口惜しさを思い顔をくしゃくしゃに歪めて涙をこらえる。なんというピュアピュア侍。暗い過去を背負わせたら天下一品、それが天華えまなのである。その後も、廃嫡の真相を彦左さん(汝鳥伶さん)が語る場面では、切腹しようとする彦左さんを見てびっくりしたり動揺したり目をぱちくりさせたり、彦左さんから初めて語られる殿様の高久様に対する愛にまた顔をくしゃくしゃにして、涙をこらえるために目を伏せて息を吐く。そして曲者が現れたと知った瞬間、「高久様の為に一働き出来る!」と思ったのかキリっとした笑顔になる頼母さん。とにかく表情豊か。鮮やかな襷掛けと殺陣も最高に格好良い。

しかし、頼母さんも魅力はこんなものじゃない。品川宿の場面が絶品なのだ。駆け込んでくる長屋の面々を見た際、一瞬警戒したもののすぐに状況を察知し、一瞬目を伏せて何かを考えていた。恐らくあの瞬間、頼母さんは心を鬼にしていたのだ。顔を合わせればきっと、高久様も長屋の面々も別れが一層辛くなる。心を鬼にして、彼らを帰そうとした。けれど、高久様自身が別れを告げる事を決めた。それを見守る頼母さんは、必死に心を殺しているように見えた。置いていかれる長屋の面々の気持ちも分かる。高久様の気持ちも分かる。だからこそ溢れてきてしまう感情を必死に抑え込んで、平静を装っていたのだ。それを確信したのは、彦左さんと入れ替わりでハケていく時だった。袖に入る直前、今にも泣いてしまいそうなほど顔をくしゃくしゃにして、高久様に視線を投げていた。その顔を見て、私の心はめちゃくちゃになった。最後の最後で私の心にとんでもなく大きい感情を残して去っていく頼母さん、なんて罪深いのか。

天華さんのお芝居は緻密で繊細だな、ということは知っていたけれど、前作の「ロミオとジュリエット」を見てからしばらく時間が経っているから、久しぶりに見たら結構な衝撃だった。気持ちの流れやその見せ方をしっかり計算した上で、その日その時に生まれる感情も大切にしている。そして、ハケる瞬間までファンは見ているということもしっかり念頭に入れ、特大の感情を残してハケていく。改めて、天華えまというお方はとんでもない役者だなと思った。贔屓目かもしれないけどね!!

この作品を経て更なる成長を遂げた天華さんが大劇場の舞台で見られるのが楽しみでならない。とはいえ「婆娑羅の玄孫」はまだ公演中。どうか何事もなく、皆さま元気に千秋楽を迎えられますように!

 

宝塚

Posted by malchan