まるで華ちゃんそのもの。ポンペイアとフローレス~2021年花組公演「アウグストゥス-尊厳ある者-/Cool Beast!!」~
とうとうこの日が来た、という感じだった。華ちゃんのサヨナラ公演。あの可愛い可愛い花組トップ娘役・華優希ちゃんを生で拝めるのは今日で最後、と思うと胸がキュっとなる。どこからきているのか全く分からない緊張感を抱えつつ、劇場に足を踏み入れた。
ポンペイア。華ちゃんそのもののようなお役だった。強く、美しく、聡明で心にあたたかな光が灯っている。愛する父を殺されたことでカエサル(夏美ようさん)への復讐の炎を燃やす彼女と、己の全てを懸けて燃えるように役として生きる華ちゃんの姿が重なる。ポンペイアとして舞台に息づく華ちゃんは素晴らしく、特に、柚香さんとの場面では、音楽もなく、舞台上にたった二人だけにも関わらず、劇場全体を張り詰めた緊張感で満たすその集中力と演技力は圧巻だった。そしてこれぞ華ちゃん、と思ったのが、ウェスタ神殿の場面。自分の中に生まれた憎しみに戸惑うオクタヴィウス(柚香光さん)に対し、心の声を信じるよう訴えるポンペイアは清らかな光を放っており、華ちゃん自身の清楚さが際立っていた。「あなたの言う通り、私たちは友にもなれた。」この言葉が、何より強い柚香さんとの絆を表しているようだった。そういえばこの場面、巫女見習いの中で華ちゃんだけ照明おかしいな、と思ったらゴリゴリのフラグでしたね。
2度目のウェスタ神殿の場面でもまた、真実を知ったオクタヴィウスにあたたかな言葉をかけるポンペイア。「私はあなたの祈りの中にいる」。これはオクタヴィウスを勇気付ける言葉であり、また、私たち観客に向けられているようにも思えた。お別れじゃないよ、と言ってくれているようで、それが寂しくも幸せで、涙が止まらなかった。場面の最後、セリ下がっていく華ちゃんがこの世で一番美しいと思ったのだけれど、その美しさはすぐに更新された。凱旋式のラスト。セリ上がってくる華ちゃんのあまりの美しさに息を飲んだ。この瞬間こそ、この世で一番美しい。彼女自身から美しくて清らかであたたかい光が溢れ出し、誰よりも輝いていた。
フローレス。一生懸命大人っぽく艶っぽいお花であろうとする華ちゃんが愛おしかった。柚香さん演じるベスティアに愛され、守られ、けれど寄り添うだけでなく自分の足でしっかり大地を踏みしめている。そんな印象だった。裸足のデュエットダンス、ベールがとれた瞬間の輝きが忘れられない。本当に、パッと花が咲いたようだった。そして中詰めの掛け声めちゃくちゃ可愛かったなあ…。苦手だった歌も頑張ったんだな、っていうのが凄く伝わってきた。サヨナラ公演でもこうして進化を見せてくれるのはとても嬉しい。きっと千秋楽に向けて、もっともっと進化していくのだろうなあ。
思えば、トップに就任してから、本公演で華ちゃんが演じたお役は、愛する人を想う優しさから生まれる“心の強さ”を持った女性ばかりだった。それはそのお役が持つ気質であると同時に、華ちゃん自身の芯の部分だったように思う。宝塚への愛、組への愛、そして相手役の明日海りおさん・柚香光さんへの大きな大きな愛。それらが華ちゃん自身を強く美しく成長させ、今回の公演で、華ちゃんは誰よりもまばゆい輝きを放っていた。いつだって自分自身と戦って、ボロボロになってもそんな部分はひとつも見せず、夢々しくお花のように存在し続ける。華ちゃんこそ、誰もが思い描く「宝塚の娘役」なのだと思う。みんながメロメロになる天性のヒロイン気質と、その奥にある優しさと強さ。会見やご挨拶での言葉選びは聡明で美しく、しかしリラックスしている場面では想像の斜め上をいくおもしろ発言が飛び出す。華ちゃんの魅力は枚挙にいとまがない。どうか、彼女が愛する宝塚を巣立つその日まで、幸せと笑顔であふれる日々を過ごせますように。