乳母と死~2021年星組公演「ロミオとジュリエット」~

2021年9月21日

ロミオ礼真琴さんについて書いたが、もちろんジュリエット舞空瞳ちゃんも、ティボルト愛月ひかるさんも、ベンヴォーリオ瀬央ゆりあさんもみんなめちゃくちゃ良かった。

そんな中でも。今回「ロミオとジュリエット」を観劇し、特に心に残ったお二人をご紹介したい。登場するとついついオペラグラスで追ってしまったお二人。今後観劇される皆様、良かったらぜひご注目ください。

まず1人目、ジュリエットの乳母役・有沙瞳さん(以下くらっち)。もともと私はこの作品を観ると、乳母がジュリエットを想って歌う「あの子はあなたを愛している」で絶対に泣いてしまうのだが、今回はもうこの1曲だけで大号泣だった。控えめに言っても素晴らしい。0番(舞台センター)からほぼ動かずあの表現力。くらっちが発する力強くも優しい歌声により劇場全体があたたかい空気に包まれ、涙なしでは見られない素晴らしいシーンだった。私の中でくらっちといえば「銀二貫」のいとさんだったので(星組でも見てたのにな…)、成長っぷりに大感激してしまった。

それから、くらっちは役作りも素晴らしかった。乳母は台詞回しや声のトーンにより、ともすれば下品になりがちな役である。しかしくらっちは、ドスの効いた声を随所に盛り込みつつも、名門キャピュレット家に仕える者としての気品を失っていない。そして何より、セリフがない時の表情の演技が凄まじい。「エメ」の時、真ん中のロミオとジュリエットをついつい見てしまいがちだが、そこはDVDなりBlu-rayに収録されるからと割り切って、下手端にいる乳母をぜひともご覧いただきたい。穏やかに二人を見つめながら、不意に感極まったような表情をする。この感極まった顔が極上なのだ。その表情は、ジュリエットを心から愛し、育ててきた乳母そのもの。深い愛に満ちたくらっちの美しいお姿は必見である。

そして2人目、死役・天華えまさん(以下ぴーすけ)。正直私、ぴーすけのことを舞台で認識したことがなく、今回友人に言われて初めて注目していたのだが、大変良かった。

これまでの死はどことなく、死へと誘う冷え冷えとした悪意のようなものが薄っすら見えていたが、ぴーすけの死にはそれを感じなかった。死としてとても無垢な状態で存在している。自分から死へ引き込むことはないけれど、人が少しでも死に向かってこようものなら嬉々として待ち構える。そんな感じだった。あと、「マブの女王」ラストで突然現れてものすごくびっくりした。急に湧いて出たのかと思ったよ本当に。

なお、ぴーすけの私的見どころは以下の通りです。

・ティボルトとマーキューシオが喧嘩している場面で、後ろの階段の上で頬杖をついたり、猫のような動きをしているぴーすけ(可愛い)

・「代償」の場面で、後ろのセットからひょっこりはんをしているぴーすけ(何してんの?)

・「ロミオの死」でロミオが服毒した後、無言なのに完全に\トレッッッッッビアーーーーーン!!!!/ってなってるぴーすけ(月山ァっ!)

・「エメ(リプライズ)」で愛と向き合い、グッと手のひらで押し合った後にゆっくり手をつなぐぴーすけ(反発し合っていた愛と死の和解の瞬間!)

ぴーすけはダンスがあまり得意でない、ということを、観劇後に友人から聞いてひっくり返った。そんな風には全く見えない。それってめちゃくちゃ凄いじゃん。完全にぴーすけを好きになってしまった。

他にも見どころはたくさんあるし、私が見たのはA日程だったし、B日程ともなればまた違った見どころが出てくるだろう。配信見れなかったから…魂食べちゃう愛月さん見たかったな…。