名もなきヒーローと新世界の救世主~2021年宙組公演「シャーロック・ホームズ―The Game Is Afoot!―」

私のシャーロック・ホームズの知識と言えば、「名探偵コナン」と途中まで読んだ「憂国のモリアーティ」、2007年宙組公演「A/L」、あとは舞台「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」くらいなものだ。つまりはめちゃ浅い。きっと小説を読んでおけばもっともっと楽しめるのだろうけれど、ただでさえ読むのが遅い上にどれを読めば良いのか分からなくて挫折し、とりあえず「劇場版名探偵コナン ベイカー街の亡霊」を観てから観劇に臨んだ。

可愛い娘役さん探しで気もそぞろだった部分もあるから本当はそんなことないのかもしれないけれど、初見の感想としては、「推理というより知略」という印象だった。二人の天才が知略を巡らし、仲間の力を借りながら求めるモノに近づいていく様は見ていて最高にワクワクする。そして配役が大天才。全員がピッタリはまっていて観ていてストレスがないタイプの作品。特に真風涼帆さん演じるシャーロック・ホームズ、芹香斗亜さん演じるジェームズ・モリアーティは、ご本人が元々持っている良い意味でのクセの強さがそれぞれのキャラクターをより一層際立たせ、銀橋で二人が背中合わせになった瞬間は鳥肌が立った。対極にいるようでいて通じるもののある二人。真風さんと芹香さんだからこそ成立した物語とも言えよう。

どんなに知識は浅くても、なんとなく「シャーロック・ホームズは変わった人」というぼんやりとしたイメージはあるし、「モリアーティはヤバい人」というイメージもある。(語彙力の死。)だらりと椅子に掛け、時折奇妙な行動に出て相棒のワトスン君(桜木みなとさん)を困らせる姿は変わり者としか言いようがないが、事件の話となると目の色を変え明晰な頭脳で見事な推理を披露するホームズ。飄々とした語り口は真風さんの持ち味とマッチしていて、「これがかのシャーロック・ホームズか!」と納得させられる。一方、クライアントからの依頼を受け、邪魔な人間を排除するために楽しげに犯罪に手を染め、「争いを支配すれば全ての罪を支配できる」というとんでもない思想を持ち、“新世界の救世主(メシア)”になりたい男・モリアーティ。犯罪の話をする彼は無邪気な子供みたいに目をキラキラさせて可愛らしささえ覚えるが、時に冷酷な表情も見せる。芹香さんのお芝居の振り幅の広さを感じさせてくれるお役だ。不思議なもので、モリアーティはどう考えてもヴィランなのだけど、ホームズはヒーローではないように思う。それは、人々のために事件を解決している、というより、自分の好奇心を満たすために事件を追っているように見えるからかもしれない。だからこそ、彼らは全くの対極ではないと感じたのだ。

そしてもう一つ、彼らには共通点がある。それは、「類稀な頭脳を持っているからこそ、その頭脳だけでは全てを成し遂げることは出来ないと理解している」ことだ。ホームズはワトスン君やベイカー・ストリート・イレギュラーズ、スコットランド・ヤードなどの力を借りることもあるし、モリアーティには仲間たちがいる。特殊な能力を持っていれば己を過信して一人で突っ走りそうなものだけれど、彼らは仲間と共に、足りない部分を補い合いながらそれぞれが望む事を成し遂げようとしている。そこが良い。どちらのチームも一体感が強く、そこがこの作品の魅力的な部分だなぁと思う。

宝塚らしいラブロマンス要素と言えば、アイリーン・アドラー(潤花さん)とのトライアングル・インフェルノ。絶妙な三角関係。とはいえホームズvsモリアーティのバトルを思えば恋愛要素は薄味だった。それで良いと思う。最終的になんやかんやあって死の淵から見事戻ってきたホームズとアイリーンが結ばれてハッピー・エンドだったのも私は好き。「名もなきヒーロー」っていうのはちょっと…ダサいけど…。ロマンチック・コメディーかってくらいハッピーな歌と踊りで大団円!…と思いきや、ラストがめちゃくちゃ不穏。そこもまた好き。これが映画だったらエンドロールの後に「続編制作決定!!!!」ってテロップが出てきて椅子に座り考えこむホームズが映り、カットが変わってモリアーティの口元が「探し物は見つかったかな…?」って動く映像が流れそう。勝手に予告編作れそうだわ。最後の最後でそんなワクワクをぶち込むのやめてくださいよ生田先生。

観劇して、やっぱり小説が読みたい!!と思った。ホームズもモリアーティも、他のキャラクター達も魅力的すぎる。謎解きが観たい方には物足りないのだろうけど、宝塚の豪華さや男役さんの格好良さを観るにはもってこいの作品だと思う。これが初観劇だったら宝塚にハマっちゃうだろうなぁ。

 

宝塚

Posted by malchan