雪組こそ魔法の箱~2021年雪組公演「ほんものの魔法使」~
まずもって開演前の音楽でワクワクさせられる。小劇場公演ならではのこの魔法が好きだ。
雪組・朝美絢さん主演の舞台「ほんものの魔法使」。先行画像でその顔面の良さを遺憾なく発揮していたあーさ(朝美絢さん)、分かっちゃいたけど、芝居も歌もダンスも、どれをとっても期待を裏切らない。あーさを見ていると、毎回毎回「ビジュアルだけじゃないんだぞ」って見せつけられている気分になる。好き。
本物の魔法使いの中に手品師が入り込む、というものは見たことがあるけれど、手品師たちの中に本物の魔法使いが入り込むパターンは見たことがなくって新鮮だった。アダム(あーさ)とジェイン(野々花ひまりさん)、モプシー(縣千さん)もピュアで可愛らしいキャラクターなのが良い。
あーさ。すごいなあ。研13でありながらあのキラキラ感。どの瞬間を切り取っても美しいお顔。どんどん上手くなる歌。アダムのピュアさがあーさの持つフェアリー感とマッチしていて大変良かった。本物であるが故に一人ぼっちを強く実感する彼は、「本物」、すなわち物事の本質をしっかり捉えている。生きていく上で何より大切なのは見た目でもお金じゃないということをしっかり分かっている。肩に力が入っていない佇まいもナチュラルな笑顔も、本質を知っている彼だからこそ。心に残ったのは、「この世界は魔法で満ち溢れている」という歌詞。なんてピュアなんだろう。世界の捉え方ひとつとっても、彼の心の美しさ、前向きさが窺える。そして彼の心の美しさは、クライマックスでも見ることが出来る。自分の保身のためアダムを排除しようとする魔術師たちが欲しているもの、生活のためのお金を魔法によって降らせるのだ。彼は、自分を排除しようとする者たちですら、魔法により苦しめようとはしない。しかし、金貨を降らせた時、彼が悲しそうな、苦々しい顔をしていたのが印象的だった。私はその表情を見て、理由も分からず涙がこぼれたが、その答えをファスマーがくれた。虚しかったのだ。落ちている金貨を必死に搔き集める魔術師たちを見て、虚しい気持ちになって、その空虚さが悲しくて、涙が出た。誰もが魔法を使えるのにそれに気づかず、信じもせず、アダムをただ異端として排除しようとし、お金という儚いものに縋りつく。人として生きていくのに大切なこと、その本質を見極められない魔術師たち。魔法が根本にある作品でありながら、見せつけられたのは人間の愚かしさ、そして、アダムという人の心の美しさだった。
ひまりちゃん。全てには裏がある、隠された仕掛けがある。これは魔術の話であり、対人関係のことでもあるのではないか。ジェインは周りの人間に「裏がある」と感じながら生きてきたのだろう。それが当たり前と思っていたのに、アダムはそんなものが全くない。真っ直ぐで純粋、ありのままでいるアダムだからこそ惹かれていった。本質を見抜こうとするジェインだからこそ、アダムを信じ、心を通わせることが出来た。怒ったり泣いたり笑ったり、表情がコロコロ変わるひまりちゃんが本当に可愛い。「できる」と「やるんだ」の箱の話を素直に受け取って、箱を開けて魔法を使ったジェインがすごく愛おしい。そしてお衣装が!!青いワンピースがとてもとても似合っていて可愛かった!!色味が統一されていて一見大人しいのに、スカート部分に柄の違う布がいくつも使われていて、魔術師たちのガチャガチャ感を上品に取り入れている感じだった。素敵。加藤真美先生…好き…ってなった。
あがた。モプシー最高に可愛かった。劇団にめちゃくちゃ推されてるのも納得のクオリティ。割とがっしりしているのにお顔が綺麗で、あれだけ可愛らしい演技が出来て、歌えて踊れるんだから強い。空手チョップって歌いながら回し蹴りしててちょっと笑った。可愛くニコニコ笑ってアダムにじゃれついているかと思えばイケメンになったり、ピアノ弾いたり、ドッグフード抱えて寝ちゃったり、もうなんだろう。この人が数か月後に海坊主になるって?嘘だよね?信じられない。タカラジェンヌってすごいな。
そして華世京くん!!研2だなんて信じられないくらいの出来上がりっぷり。歌が上手!芝居心もしっかりある!すごい!!(語彙力の死)
フィナーレは華世京くんの大抜擢に驚き、娘役さんのドレスが可愛く、デュエットダンスは再会したアダムとジェインのハッピーエンド、という感じてとても感動した。雪組こそ魔法の箱、と思えるような、最下級生までみんながキラキラ輝いて、これからの雪組が楽しみになる作品だった。大千秋楽まで、無事に公演が出来るよう祈っています。