私が見た、東日本大震災と宝塚
2011年3月11日。あれから10年。
私は当時実家に住んでおり、その日は母とともにお昼のワイドショーを見ながら下らない話をして、バイトまでの時間を過ごしていた。
14時46分。下から突き上げるような縦揺れの後、大きく横に揺れた。地震だ!飼っていた2匹の猫たちは慌てて押し入れを駆け上がり、自室の本棚からは歌劇やらGRAPHやら公演プログラムが崩れ落ちて床を埋め尽くし、私は経験したことのない長く大きい揺れに怯えながら、テーブルの下で泣いていた。
少しして揺れが収まると、余震が来るから、と母と二人、外へ出た。お隣さんもそのお隣さんも出てきていた。私はまだ泣いていた。
幸い二次災害等はなかったが、電車が止まってしまったため、店長に連絡して、その日はバイトを休ませてもらうことにした。本棚から落ちた宝塚関連の書籍たちを戻していると、ようやく猫たちが押し入れから出てきた。怖かったね。
そして、その日の夜だったか、翌日だったか。私は目にした。津波の映像を。家や車、町を飲み込み押し流していく濁流を。何が起こっているのか、これが現実なのか、全くわからなかったが、なぜか涙が出た。流されていく、何もかも。ただただ恐ろしかった。自分の感じた怖さなど、あの惨状からすると、ほんの些細なことだったのだ。
それから次々に被害の状況が分かってきた。そしてその中に、日本青年館が被災した、というニュースも目にした。私はつい数日前、宙組公演「記者と皇帝」を見に行ったばかりだった。友人が取ってくれた席は上手寄りであるもののかなり前の方の席で、芝居中に客席に降りてきた北翔海莉さん・蓮水ゆうやさんが目の前にいらっしゃり、相当に興奮した。桜木みなとさんのヘタレ役があまりに可愛らしく、勢いのままお手紙を書き、投函したばかりだった。その青年館が被災。そしてその後目にしたのは、宙組公演「ヴァレンチノ」の中止の一報だった。
実は私は、「ヴァレンチノ」のチケットを取っていたものの、仕事の都合で行けなくなってしまい、相当しょげていた。加えてこの地震、そして公演中止。悲しかった。でも中止になったものは仕方がない。そんな思いで過ごしている中で、宙組が宝塚大劇場にて「美しき生涯/ルナロッサ」を公演中、とんでもないニュースが飛び込んできた。ヴァレンチノ東京公演実施決定。しかも初日は東京宝塚劇場公演千秋楽から一週間足らず。正直そんなスケジュールで公演をやるなんてびっくりしたが、見に行けるかもしれない、という期待に胸が膨らんだのも事実だ。
「美しき生涯/ルナロッサ」もとても好きな作品で、震災後、まだどこか暗い気持ちを抱えたままだった私にとって、明るい光のように思っていた。ルナロッサの猫ちゃんがもうめちゃくちゃ好きだった。しかしこの作品を観ながらも、先にある「ヴァレンチノ」の影がちらついていた。これが終わったらすぐに始まる。出演者の皆さんは大丈夫だろうか。疲れてないかな、毎日ちゃんと食べてるかな。いや宙組さんに限って「食べられない」なんてことはないだろうし、よく眠れてそうだし、大丈夫かな。さながら母親の気分である。詰め込まれたスケジュール、心配だけれど、青年館のスケジュールと、スタッフと出演者の身体が空いていたというのは、奇跡なのだ。身体を張って奇跡を起こしてくださる皆様に感謝しつつ、「美しき生涯/ルナロッサ」も、「ヴァレンチノ」も、無事に千秋楽にたどり着けるよう、祈った。
次回に続きます。
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